京都御池メディカルクリニック[予防医療、検査、がん治療]

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がん抑制遺伝子と変異

前回リキッドバイオプシーについてお話させていただき(3月9日第5回:リキッドバイオプシーと癌の超早期発見)、癌の治療が終了しCTなどの画像検査上は癌が消えている方や、癌の家族歴があり心配で超早期発見や予防医療を行いたい方などから様々なお悩み相談やお問い合わせをいただきました。一度、癌に罹患すると再発したくないという強い思いはごく自然なことだと思います。そこで癌の再発予防について遺伝子という観点から、もう少し深くお話をさせていただきます。

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本内容はKBSラジオ「ま~ぶる 竹内弘一のズキューン」内コーナー「Dr.村西の健康ランチミーティング」内にて本院院長・村西寛実がお話しした内容をコラムとして掲載しております。

「ま~ぶる 竹内弘一のズキューン」番組サイト

https://www.kbs-kyoto.co.jp/radio/take/

コラム内容のラジオ録音

◆癌の再発予防として、定期外来における各種検査以外でのアプローチの必要性

癌の標準治療が終了すると、3ヶ月後・6ヶ月後にCT/MRIなどの定期的な検査を外来で行います。そういったフォロー外来はもちろん非常に重要な意味を持ちますが、その定期外来を待っているだけではその間における再発予防のアプローチとしては少し乏しいため何らかのソリューションがあればと考えています。癌は生活習慣病の一部ともいわれているように、喫煙や運動習慣、食生活、過労や睡眠不足など生活習慣とかなり密接に関係しています。そのため、もちろん「食べるもの」や「運動すること」に焦点を当て改善していくということは今すぐにでもできるアプローチですし、一番最初にすべきことでもあると思っています。

◆癌細胞の発生メカニズム

癌細胞の発生メカニズムについては解明されてきているところも多く、生活環境や食品中の添加物・保存料などの化学化合物、紫外線や放射線、その他にはウイルス(例えば、肝炎ウイルスやヒトパピローマウイルス)などの、発ガン要因というものが総合的に組み合わさりカラダの中で毎日、活性酸素をつくり出し酸化ストレスという状態を引き起こします。酸化ストレスに抵抗するチカラである「抗酸化力」と「酸化ストレス」のいわば綱の引き合いで酸化ストレスが勝ってくると、癌の増殖に繋がる癌遺伝子の活性化が起こり、一方で癌細胞の発生を抑制している遺伝子(癌抑制遺伝子)の不活性化も同時に起こり癌細胞の際限ない増殖へと繋がっていきます。一次予防や再発予防という観点から考えてみると、癌細胞の発生を抑えるためにはこの根源となっている活性酸素の蓄積(酸化ストレス)を抑えることは理論上一つの妥当なアプローチであると考えられます。以前お話した「抗酸化力」という、酸化ストレスに抗うチカラですが、結局のところ野菜や果物、キノコ類や乳製品、魚などバランスの良い食事をして適切な運動を継続することで抗酸化力が向上しますので、「食べるもの」・「運動すること」を見直すことの重要性はここにあります。

◆癌の再発予防における食事や運動以外のアプローチとしての「サプリメント」

日々の食事や運動以外のアプローチとして、血液検査で各種ビタミン類をチェックし欠乏しているものを観察しながらサプリメントで補給することや、抗酸化作用のあるサプリメントを摂取することも一つの手だと考えられます。ただ、抗酸化作用のあるサプリメントは複数あるものの確固たるエビデンスという観点では、癌予防、再発予防に対して明確に有益だと証明されたものは今のところ僕が知っている範囲内においてありません。また、直近の抗癌剤治療を行う乳癌患者さんを対象にした1200名程度のデータにおいてもビタミンA、C、E、カロテノイド、コエンザイムQ10といった抗酸化サプリメントを内服している患者さんの方が、再発率が高かったといったデータも出ていますので、その辺り何かサプリメントを内服される場合には注意をしておく必要はあります。とはいえ、抗酸化性物質や腸内細菌へのアプローチを含めた免疫を向上させる作用のある食品やサプリメントを日々の暮らしに取り入れておくことは理論上確かに癌の発生予防や再発予防に有益であると多くの研究者の方々は考えておられ日々の研究を続けておられますのでその可能性を一概には否定できないと考えています。

◆癌細胞の発生にかかわる「遺伝子の変異」

癌細胞の発生には遺伝子の変異が関与していることがすでに分かっていますので、その遺伝子に対するアプローチというのも理論的にいうと妥当かと思われます。癌ゲノム医療というのをお聞きになっている方も多いかと思いますが、これは簡単に言うと、癌細胞の遺伝子を細かく網羅的に調べることで効果の期待できる薬剤を検討する、といったものになります。癌と一言でいっても、その癌細胞の顔つきは様々で、それゆえ効果の出る治療アプローチも異なります。また、海外においてはその「癌遺伝子」や「癌抑制遺伝子」をターゲットにした治療も行われています。中国ではp53という非常に有名な癌抑制遺伝子をターゲットにした遺伝子治療製剤がすでに保険適応をとっていて実臨床で使用されています。また、2018年頃に30以上の臨床研究で得られた3万人程度の患者さんのデータをまとめた論文などもあり、抗癌剤治療や放射線治療とのコンビネーションで特に良い結果を出しています。今後はこういった遺伝子をターゲットにした癌の検査や治療が加速度的に進んでいくのではないかなと感じています。

◆癌の新たな治療法

癌の治療として、ガイドラインでいう手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療を主軸にしながら、他の側面からもアプローチするということが必要かと考えています。主軸となる治療の相乗効果を狙った治療アプローチができないかということや、副作用軽減のために何かできないかという点において世界でも様々な臨床研究がなされています。2月23日第4回:“MCI”ってご存じですか?でお話をさせて頂いたクルクミンと言う物質の点滴製剤が欧米では既にあり、2020年に発表されたドイツとアメリカの共同研究では、抗がん剤治療を受ける乳がん患者さんに対してこのクルクミン点滴を併用した患者さんとプラセボを投与した患者さんで比較したランダム化比較試験で、奏効率上昇や副作用軽減につながったという報告がありました。そのため、当院では適応のある患者様に対してそのアプローチも取り入れご提案しています。いずれにしても癌がカラダの一部である以上、色々な側面からアプローチしてこそ良い効果が得られるのではないかなと個人的には考え日々の臨床を進めています。

◆カラダによい食べ物『新玉ねぎ』

新玉ねぎは、硫化アリルという成分が血液を固まりにくくし、いわゆる血液をサラサラにする効果があります。あとはオリゴ糖も入っていて腸内環境の整備にも役立ちます。また最近注目を浴びている、ケルセチンと言う抗酸化物質の一つが玉ねぎには豊富に含まれていますので、酸化ストレスの軽減につながるかと思います。この時期、新玉ねぎは甘いので簡単にスライスして他の野菜と合わせてサラダで食べたり、スライスしたものと鰹節をあえてそのまま頂くのも個人的には好きですが旬のものの一つとして今日の夜の献立にお役立て頂ければと思います。

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