京都御池メディカルクリニック[予防医療、検査、がん治療]

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遅延型フードアレルギー(IgG抗体検査)の臨床的意義と課題

          ―現場での活用とエビデンスの現状―

 近年、慢性炎症性疾患や不定愁訴を訴える患者に対し、食事内容の見直しの一環として遅延型フードアレルギー検査(食物特異的IgG抗体測定)を実施しているクリニックが増えてきています。
 その一方で、この検査の解釈や意義をめぐっては、医学的な評価が定まっていないのも事実です。
 今日は少し硬い話題ですが、ここ最近お問い合わせが多い検査でもあり、SNSにおける誘導的な文言にミスリードされないよう、この場でその本質が正確にお伝えができればと思っています。

 尚、今日お伝えすることは、この検査をご希望されてご来院される方には、検査を受けられる前に全てお伝えしている内容となります。

■国内における検査の位置づけと批判的見解
 日本アレルギー学会は、IgG抗体検査に基づくアレルゲン除去食に対し、「診断的有用性は証明されておらず、推奨できない」とする見解を公式に表明しています(日本アレルギー学会 2016年)。
 これは、IgG抗体が食物摂取後の正常な免疫応答の一部であり、過敏性や炎症性疾患の指標とは限らないという立場に基づいています。
 また、この検査を通して不適切な食事制限によって、本来なら摂取できていた栄養素が摂取できなくなる懸念も示されています。

■一方で報告される臨床効果と国際的な論文動向
 その一方で、国外ではこの検査に基づいた”除去食療法”が、過敏性腸症候群(IBS)や片頭痛、アトピー性皮膚炎、慢性疲労症候群(CFS)などの症状改善をもたらす可能性を示唆する報告がいくつか存在します。
 例を挙げると:

  • Atkinson et al. (2004, Gut) → IBS患者150名を対象にIgG抗体に基づく除去食 vs 偽除去食で無作為化比較試験を実施。IgG除去群で有意な症状改善が認められた。
    (Atkinson W, et al. Gut. 2004;53(10):1459–64.)
  • Wu M, et al. (2022, Nutrition & Metabolism) → IgG抗体値に基づく食事指導が慢性疲労や皮膚症状の改善に寄与する可能性を報告。(① Noh G, et al. Pediatric Allergy and Immunology. 2007;18(1):63-70, ② Wu M, et al. Nutrition & Metabolism. 2022;19(1):22)
  • Alpay K, et al. (2010, Headache) → IgGに基づく食事指導により、片頭痛の頻度と強度の軽減が報告された。(Alpay K, et al. Cephalalgia : An International Journal of Headache. 2010;30(7):829-37)

 こうした研究は、あくまで「IgG抗体値が疾患を引き起こす」のではなく、「何らかの過剰摂取または免疫過剰を示唆するマーカー」として機能している可能性を示しています。

■当院での位置づけと活用
 当院ではこの検査を「診断」ではなく、個別の生活習慣改善のヒントとして位置づけています。検査結果だけを根拠に、単純に該当する食品除去を決定するのではなく、患者さんの主訴・生活背景・摂取頻度やタイミングなどもお聞きしたうえで、結果説明の際に段階的なアプローチを提案し、食事のコントロールを自己で実践してもらっています。
 また、遅延型フードアレルギー検査の際に可能ならば栄養解析やオリゴスキャン、腸内環境検査などもお受け頂き、トータルマネージメントを心掛けるようにしています。

■おわりに
 食物に対するIgG抗体を調べる遅延型フードアレルギー検査は、その特異性・感度の問題や解釈の多様性から、単独での診断ツールとはなり得ません。
 しかしながら、「現代型の食事習慣に起因する慢性的な体調不良」に対し、食事の選択を見直すための一つのツールとしては有用な側面を有していると考えています。
 今後さらなる臨床研究と標準化が求められる領域であるとともに、現場においては慎重かつ柔軟な運用が必要とされる検査だと捉えております。

 検査をご希望される患者さんにはその辺りを全て説明して、ご理解のうえで当院では検査を受けてもらうようにしています。

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